※写真はイメージです。
「HMFと健康」全5回
第1回 HMFはどこにある?
第2回 メイラード反応とHMF
第3回 HMFは善玉か悪玉か?
第4回 くすりになったHMF
▶第5回 HMFに期待すること
HMFに期待すること
パームシュガーに入っているヒドロキシメチルフルフラール(HMF)は、化学合成でも作れます。合成品は、アフリカ大陸の人々にとって、鎌形赤血球病という重症の貧血に効く特効薬になりました(第4回を参照)。それまでの薬と違って、副作用がほとんどないという利点があります。
では、パームシュガーに入っているHMFは薬と同じように効くのでしょうか?残念ながらそうするには、ちょっとした工夫が必要です。薬と同じように効くためには量が不足しているのです。パームシュガー100グラムには10ミリグラムのHMFが入っていますから、毎日30ミリグラムを摂るには、毎日300グラムのパームシュガーを食べることになるのです。もし本当にそんなことをしたら、たちまち糖尿病になってしまいます。ですから実用化のためには、現在のHMFの量を10倍以上に増やす必要がありそうです。
パームシュガーのHMFを増やすことはさほど難しいことではありません。加熱するだけで、簡単に増やすことができます。ところが、世の中の食品会社は、砂糖を使った製品にHMFを増やすのではなく、逆に減らす努力をしているのです。なぜならHMFが増えると「無色→黄色→茶色→褐色」というように、製品に色がついてしまうからです。パームシュガーが黄色く色づいているのは、HMFを含んでいるからです。
さて、パームシュガーを調理で加熱してHMFの量が今の10倍、つまり100グラムあたり100ミリグラムになれば、4グラムの角砂糖1つに4ミリグラムが入っていることになります。さらに加熱してもう少し増やして20倍にすれば、角砂糖1つに8ミリグラムとなります。つまり角砂糖4つで32ミリグラムとなって、毎日食べ続ければ薬と同じように鎌形赤血球病貧血に効くようになるはずです。
ではHMFは、よくある原因不明の貧血に効くでしょうか?今のところ臨床試験はありませんが、ヒトの赤血球を使った基礎研究では、貧血を改善する可能性が示唆されています。また、HMFはポリフェノールに似た抗酸化作用をもっていますし、血小板の活性化を抑える作用ももっています。ですから動脈硬化を予防して、血栓を防ぎ、脳卒中やアルツハイマー病の発症を遅らせる効果も期待できそうです。
今あるパームシュガーのHMFを調理などでちょっと増やすだけで、薬のような作用が発揮されるという、一石二鳥の茶色いパームシュガーに期待しているところです。
(完)
「HMFと健康」全5回
第1回 HMFはどこにある?
第2回 メイラード反応とHMF
第3回 HMFは善玉か悪玉か?
第4回 くすりになったHMF
▶第5回 HMFに期待すること
■岡 希太郎(おか きたろう)
1941年、東京都生まれ。東京薬科大学名誉教授。
東京大学薬学部博士号取得後、スタンフォード大学医学部客員研究員。日本の薬学教育に医療薬学を導入して、薬の正しい使い方を教授研究した。引退後は「コーヒーと健康」をライフワークとして予防医療を研鑽している。
著書に『珈琲一杯の薬理学』(医薬経済社)、『コーヒーの処方箋』(医薬経済社)、『カフェイン もうドーピングなどとはいわせない』(医薬経済社)、『医食同源のすすめ』(医薬経済社)、『毎日コーヒーを飲みなさい。』(集英社)、『珈琲一杯の元気』(医薬経済社)。