※写真はイメージです。
「HMFと健康」全5回
第1回 HMFはどこにある?
第2回 メイラード反応とHMF
第3回 HMFは善玉か悪玉か?
▶第4回 くすりになったHMF
第5回 公開準備中
くすりになったHMF
パームシュガーに含まれているヒドロキシメチルフルフラール(HMF)は、アフリカ大陸の人々にとって、なくてはならない薬です。アフリカだけではありません。ヨーロッパと北アメリカで暮らしているアフリカ出身の人達にとっても本当に有難い存在なのです。
鎌形赤血球貧血症をご存知ですか?黒人だけに遺伝する悪性の貧血で、酸素を運ぶ赤血球の異常なヘモグロビンの存在が原因です。身体の隅々まで酸素を運ぶ大事な大事な赤血球。その赤血球の形が変わって酸素を運べなくなってしまうのです。すなわち、正常な円盤型の赤血球が、まるで草刈りの鎌のように曲がってしまいます。
すると手足の血流に酸素が不足して肌の色はどす黒くなり、手のひらや指は腫れあがって激しく痛み、仕事も家事もできなくなります。しかしながらこの遺伝子があるお陰で、黒人はマラリア蚊に刺されても命を落とすことがないのです。
鎌形赤血球貧血症の患者の血液を、生理食塩水を入れたシャーレに垂らすと、全体が赤く染まります。一見何の違いもない普通の血のように見えますが、顕微鏡で見てみると円盤型の赤血球がありません。重症患者にあるのは「鎌形の赤血球」だけで、軽症の人では鎌形と円盤が混ざっています。
さて、このシャーレに水に溶かしたHMFを垂らします。ちょっと掻き混ぜてしばらく置いておきますと、なんと不思議なことに、鎌が円盤に変わります。まるでマジックを見ているような気分になります。でも驚くのはそれだけではありません。
円盤を取り出して、中に入っているヘモグロビンを調べてみますと、鎌のときには見つからなかった酸素分子が、たくさんくっついているのです。そして「さあ何処にでも運んでください」と言わんばかりに元気になっているのです。
シャーレの中と同じことが、身体の中でも起こります。鎌形赤血球貧血症の人が、パームシュガーに含まれているHMFと同じ成分の薬を飲むと、そのHMFが異常のヘモグロビンに結合し、あっという間に酸素分子がくっついて、同時に鎌形が円盤に変わります。間もなくして、腫れ上がっていた手指が普通の太さに戻ると痛みが消え、仕事も家事も不自由なくこなせるようになるのです。
さて薬としてのHMFは、最初の1回だけ大量に、体重に合わせて3~5グラムを飲みますが、翌日からはその90分の1ずつを毎日飲むことになっています。
何故かと言いますと、赤血球とヘモグロビンの寿命が90日だからです。毎日90分の1のヘモグロビンがなくなると、それにくっついていたHMFもなくなります。そのなくなった分を補うことで、新しくできるヘモグロビンに新しいHMFがくっつくのです。
90分の1のHMFとは30~50ミリグラムの少量ですから、ちょっと工夫すれば食べ物から摂ることもできるのです。ですから、HMFを含むパームシュガーを普段使用しているお砂糖と置き換えるだけで、貧血を予防できるかもしれませんね。
では次回は、HMFの将来性についてお話しましょう。
<まとめ>
❶鎌形赤血球貧血症の遺伝子を持つアフリカ大陸の人々にとってHMFは、なくてはならない薬である。
❷HMFは、鎌形赤血球貧血症患者の血液中にある鎌形に変形した赤血球を正常な円盤形に戻すと同時にヘモグロビンに酸素分子をくっつけて全身へ酸素を運ぶ働きをすることで、症状を改善する。
❸赤血球やヘモグロビンの寿命に合わせて毎日30~50ミリグラムの少量のHMFを摂るだけで、効果が期待できる。
「HMFと健康」全5回
第1回 HMFはどこにある?
第2回 メイラード反応とHMF
第3回 HMFは善玉か悪玉か?
▶第4回 くすりになったHMF
第5回 公開準備中
■岡 希太郎(おか きたろう)
1941年、東京都生まれ。東京薬科大学名誉教授。
東京大学薬学部博士号取得後、スタンフォード大学医学部客員研究員。日本の薬学教育に医療薬学を導入して、薬の正しい使い方を教授研究した。引退後は「コーヒーと健康」をライフワークとして予防医療を研鑽している。
著書に『珈琲一杯の薬理学』(医薬経済社)、『コーヒーの処方箋』(医薬経済社)、『カフェイン もうドーピングなどとはいわせない』(医薬経済社)、『医食同源のすすめ』(医薬経済社)、『毎日コーヒーを飲みなさい。』(集英社)、『珈琲一杯の元気』(医薬経済社)。